電話の向こうで泣いている声。
目の前の、その声で弱っている男が、愛してやまない女の子。
冬の深夜に、一人、このアパートの下で泣いている女の子。
リキの助けを求めてやってきた、私が勝てない女の子。
「…行きなよ」
「ミヤ、」
「悩んでる暇なんかないでしょ、バカは、すぐ、動くんだよ」
「…でも、」
「あの子のことが、私も心配だから」
「…っ、」
「だから、行ってあげて」
指を弦から離した。
ふたりで今日も音楽を奏でていたかった。
その気持ちだけは、わたしとリキ、どちらも一緒であったと、思ってもいいだろうか。
リキは泣きそうな顔をしたまんま、頭を片手でぐしゃぐしゃと掻いた。
「──ミヤ、ごめん、」
結局はだれしも、一番のことを譲れない。
謝る顔なんてみたくなかった。
私の前では、へらへら笑っているだけでよかった。
いつも苦しんでいるのなら、私の前では、幸せそうにしてほしかった。
それが、わたしの一方通行の気持ちの恋だった。
「…ううん、はやく、行ってきな」