アルコールが残る口の中、冷蔵庫からいつもの天然水を取り出した。
コップ一杯分、ぐっと飲みほして、ギターに触れる。
曲を作るために部屋に置かれているアコギは、誰のためでもない自分のためのものだったのに。
たった一人に向けて歌うなんて特権、きみ以外にないんだからもっと大切にしてほしい。
何度も、何度も、
きみのまえでこの曲を唄いすぎて、もう、うんざりだよ。
「リキもうたってよ」
「やだよー、へたくそっていったのミヤじゃん」
「へたくそでもいいよ」
口をとがらせて文句を言うきみに笑って、ギターを手に取った。
お決まりのやり取りに、結局リキは降参して一緒に歌ってくれるのだ。
きみのことを唄ったことは、たぶんこれからも言うことがないけれど。
きみに書いた唄を、きみが鼻唄するなんて。ほんとう、ずるいと思うけど。
わたしは、この時間が一番好きだった。
私の指がギターの弦に触れる。
むりくり出したリキの精いっぱいの高い音と同じ音で、それが鳴る、一歩手前で。
ブーッ、ブーッ
──今日の終わりは、唐突に訪れる。