これまで、ずっと。
誰のためでもない自分のために歌っていた。
その言葉に誰かが共感してくれるのがうれしかった。
自分の言葉を、音楽を、生活に取り入れてくれる誰かがいるから、わたしはただ唄っていた。
私の叫びになった言葉を、リキはいつも欲しがるのだ。
「…リキ、きょうもへたくそ」
「うっせ、俺は音痴なんだよ」
リキがわたしの作った音楽を聴くようになって、覚えて、好きな曲ができる。
それを気持ちよさそうに鼻唄で歌ってくれる。
申し訳ないけど正直とってもへたくそだ。
でもそういうところが、リキの人間らしさで、好きだと思う。
「『赤い矢印』な」
「また?」
「俺、何回も言うけどこの曲が一番好き」
そりゃあ、そうだよ。
だってこれは、きみのために作ったうただ。
きみも、あの子も、わたしも。
結ばれないから、矢印のまんま、私たちは一向に重ならない。