次第に晴れていた空は曇って行き雨が降り出し、強くなって行った。まさに今の私の心模様の様に。
雨が降っている為、勿論気温は低い。濡れている身体に冷たい雨と低い温度が染み渡り、身体が芯から冷えて行く。

「ちょっ。2人して何してんの!?」

長い沈黙を破ったのは親友の音羽だった。

「あー2人共濡れてんじゃん。莉斗はもう帰りな?流石に莉斗の世話は出来無いからさ」

「ん。」

けいとと莉斗の短い会話。

「じゃあ深月。家に入ろ?」

音羽の優しい心配する声。
全てが今の私に向けられてはいけない物で、私の心を更に沈ませる。

あぁ……。この優しさが"深月"としてでは無く、"結香"としてだったら良かったのに。
そうしたら素直にこの優しさに甘える事が出来ただろうに。
私の心に呪いとなって過去の記憶が蘇る。
あの時私が、あんな事を言わなければこんな事にはならなかったのに。
今更悔やんだところでなんににもならないのに。
過去なんて絶対に変えられないのに。

『いい加減自分が悲劇のヒロインだと思い込むの辞めろよ。いつまでも過去を引きずってんじゃねぇよ。自分だけ知ってる様な言い方しやがって。お前こそ知らねぇだろ。』

さっきの莉斗の言葉が頭に反芻する。

そうだよ。全部莉斗の言う通りだ。私はいつまでも過去に捕らわれている。過去を呪う事しかしない。
それでも私は、過去から開放される術を知らない。足が前へ進まない。
過去を受け入れる為にこの地に引っ越して来たのに受け入れる覚悟が無い。
これじゃあなんの為にこの地に来たのか分からない。
そもそもなんでこんな事になったんだっけ。朝変な事を考えてそこから莉斗と再会して。
あぁ、あれだ。莉斗が言った"誓い"という単語に私が過剰反応しただけだ。結局私が始めたんじゃないか。

足に絡まるアンモニウムはいつ解けますか……?
私の記憶はここで途切れた____。