キーンコーン

HRの始まりを知らせる鐘が鳴り、クラスの担任が教室へ入ってくる。

「起立。礼。着席。」

聞き慣れた挨拶。もう見飽きた窓からの風景。それは最初に見た時、感動する程に切なく繊細で綺麗だと思ったんだ。



「今日は転入生を紹介するよー。」

途端にざわめく教室。

「初めまして!天雪深月(あまゆきみつき)と言います。これからよろしくお願いします。」

少し鼻につく様な作られた様な可愛らしい声を発する私に私は自分で気持ち悪くなった。


私は4月27日にこの学校へ転入してきた。
私は転入早々クラスメイトに良い顔はされなかった。顔は整っている方だし声を少し作っていた私がクラスメイト、特に女子に良い顔をされる筈が無い。
クラスでカースト上位に入るであろう女子には嫌われたも同然だった。

何故、始業式からでは無く微妙な27日にこの高校へ転入していたかと言うと、少し入院していたからだ。
あーあ。誰かこの色の無くなったつまらない世界に色をつけてくれないかな。唯一色のあるこの綺麗な風景だって私と真逆過ぎて虚しくなるんだ。
この教室だって、騒がしいのに私だけ静か。場違い感が凄くて押し潰されそう。

きっとあの日は季節外れのエリカが咲き誇っただろう。

「それじゃあ次は、理科だからねー。各自移動して送れないように!」

いつの間にか終わっていたんだ。しっかりしないと。もうあんな事を繰り返したく無いんだから。

ねぇ…深月(・・)。どうせもうすぐそっちへ行くんだから、悪足掻き位させてよ。その為に再び舞い戻ったんだから。
結局もう色褪せてるんだから、悪足掻きにさえならないのかも知れないけれども。

この命が深月の物だったらどれ程良かったのか……

違ったね。私は深月だから"だったら"じゃ無くて"だから"だったね。
私は私らしく悪足掻きするので時間がかかるかもしれません。
だからもう少しだけ寂しいかも知れないけれど待っていて下さい。
再会した時にまた笑い会えるように。

なんとなく歩いて着いた第2理科室。
少しの間何故来たのかが分からなくてその場に硬直してしまった。
だが、徐々に第2理科室に来た理由がわかって来た。移動教室だ。

一歩足を中へ踏み入れると鼻につくいつもより強い薬品と日だまりの香り。第2理科室では植物を育てているから、日当たりがとても良い。
それが嫌と言う程身に染みる。
植物を育てているのに、薬品を使った実験をして良いのかと言う疑問が生まれているけれど、考えている暇も無くクラスメイトが第2理科室にやって来る。

薄れて行く薬品の香りに反比例する理科室の騒がしさ。うるさいのは好きじゃ無いけれど、今の私には、ぴったりなのかも。なんて考えたりもする。
どうせ勉強なんて出来ない筈だから、授業なんて聴いている筈が無いよね。

薄れていた薬品の香りが急に強くなる。
今日の授業では薬品を使うんだ。それなら、入って来る時に薬品の香りがいつもより強かったのにも説明がつく。
本当は、薬品等を使う科学は大好きだ。なんなら物理だって、数学だって英語だって。生物は苦手だけれど。でも…私は出来ない筈だから。

本来は好きで学びたい科学でも、真面目に受ける訳にはいかないから私は睡眠を取ることにした。