俺は誰かが描いた『花の誓い』というとても繊細で夜の海を照らす様な輝きを持つ作品を見ながら想いを馳せる。
誰かも分からない作品を描いた作者に。
この人を知っている。と何故かは分からないけれど、そんな気がした。
第一、描かれているこの場所を知っているのだ。
きっと忘れては行けない事。
とても大切な事。

それでも俺は忘れてしまっていた。

この絵を見る度に何かが呼び起こされそうな不思議な感覚に陥るのだ。
ここに行ってみても、見覚えの無い女の子の綺麗な笑顔が鮮明に思い浮かぶだけであり、その子が誰かなんて分からない。
けれど、無償に会いたくなるし、謝りたくなるし、笑顔の顔を見たくなる。
とても矛盾しているけれど、考えがぐちゃぐちゃになっているから、上手く説明をする事が出来ない。
この子が俺にとっていなければならない大切な人で、大切な想い出という事はわかる。
そして、毎年三月二日の記憶だけ綺麗に無いのだ。
記憶から抜け落ちた様に。

そんな不思議な感覚に陥っている俺も怖いが、"誓い"という言葉に結びつく"呪い"という言葉が1番怖かった。
唯一言える事は、この絵にはなんとも言えない不思議な力と想い出、描いた人の凛とした想いが込められているという事だ。
この子が誰かなんてわかる筈なんて無いのに想いを馳せる俺はなんとも馬鹿なのだろうか。
きっと他人から見たら滑稽でさぞ笑い物だろう。
そんな人目も気にならない位この子が誰なのか探している。

白銀の長い輝きを持つ髪に、宇宙を閉じ込めた様な綺麗な左の瞳と青空を閉じ込めた様な綺麗な右の瞳を持っていてとても繊細で華が咲く様な笑顔で微笑む彼女。

そんな子をずっと長い間探している。

けれどもそんな子なんてどこを探しても居ない。
そんな事分かっているのに探す俺はやっぱり馬鹿だ。

___三月十八日___

今日は俺の誕生日。

別に誕生日だからって祝ってくれる人なんて居ないからどうでも良い。
だから俺は今日も彼女を探しにあの花畑へ行く。
いつもの様に誰もいない、花と俺だけの空間な筈の花畑に今日は誰かがいた。

一瞬、彼女かと思ったが長い髪は白銀では無く、茶髪で麦わら帽子をかぶった向日葵の似合いそうな姿だった。
茶髪の彼女は振り向き俺に言った。

「私は色葉。
貴方、白銀の髪の女の子……探してない?」

俺は驚きで固まった。
まさに俺の探している彼女の話だと思ったからだ。

「探してますけど……。」

ふふっと可愛く色葉さんは微笑み、

「良かったね。努力が報われて。
でもね。私はもう手助けをしないから。」

と言った。