また、身体が光に包まれると、元の記憶のセカイに戻って来ていた。
でも、何も無い訳ではなくまるで導かれているかの様に優しい光の道が出来ていた。

…………もう、目覚める時間か。

どれ位このセカイに居たんだろう。

私はゆっくりと、そして確実に光の道を歩いて目覚めという名の出口へ向かっていた。


出口はもう目の前。
もう少しここに居たかった気もするけれど、やらなければならない事が有る。
だから……私は目覚めなきゃ。

そう決意した時、私の意識は記憶のセカイにはいなかった。

「……ごめん。」

そんな彼の声が聞こえた気がして私は瞳を開いた。

あぁ。帰ってきたんだ。
心から安堵した。けど、その分不安があった。このセカイでは許されない事をしたから。
というか、彼の声が聞こえた気がして目覚めたとかやばいな。
だいぶ彼に溺れてる。こんな所に彼がいる訳が無いのに。

「結香…?」

私の名前を呼ぶ声がして、起き上がってみればそこには彼の姿があった。

私は驚きで固まった。
本当に彼がいるとは思わなかったから。

「起き…て、くれて…良かったぁ」

彼は泣きながら言った。
何故彼がここまで泣いているのだろう。
どうしようか分からないのと、驚きであたふたしていたら彼が言った。

「いっ、1ヶ月も、目を…覚まさな…いから心配、したぁ」

そんなにも私は記憶のセカイにいたのか。
そう思うと寝過ぎちゃったなぁっと思考が呑気になって気がついたら彼の頭を撫でていた。
その行動に驚きもしたけれど、ずっと彼が落ち着くまで頭を撫でていた。

彼が落ち着いて、初めて彼に問いた。

「どうして私の病室にいるの…?」

「謝りたくて。俺の言葉が無責任だったから。」

そう。と短く返事をして私は帰宅を促した。
彼に気づかれずに退院出来る様に手続きを済ませてしまいたいから。

「あぁ。そうだね。また明日」

「うん。また明日。」

それにしても酷いものだ。また"明日"なんて来ないのに。

さて、退院手続きを済ませに行こうか。
親の承諾なんてどうやってとったのだろうか。
………………大人の裏事情と言う事で黙っておこう。

       ✻    ✻    ✻ 

面倒くさい手続きやらは終わった。
明日の朝にはここを出て良いらしい。
荷物なんて無いからこのまま出て仕舞おう。

私の中では短い間だったが、長い間お世話になりました。と病室や看護師さんにお辞儀をして家へ帰った。

       ✻    ✻    ✼

帰った家には何も無い無機質な空間がある。
実家な筈なのにあの人達(・・・・)は帰って来もしないし、荷物も無いからだだっ広い無機質な空間だけが広がっている。
幼少期からの事だったから、「ただいま。」なんて言う事は無かった。
言った所で相手にされるのは双子の姉の深月だけ。

もうヤダな。

今日はとことんネガティブな日だ。
さっさと寝て仕舞おう。
明日は何をしようか。久し振りにあの場所へ行こうか。

あの呪いの誓いの場所に___。