「・・・」
ユウキは、小高い山の上にある。キャンプ場に転移していた。
「成功・・・。したのか?」
ユウキは、周りを見回して、小学校の時に遠足で訪れた場所だと認識した。夢でなければ、転移が成功したのだ。
「あとは、時間だな・・・。2022年なら時間が戻った・・・。え?」
ユウキは、自分の手を見た。
明らかに小さくなっている。7年前の15歳のころのサイズになってしまっている。
「そういうことか・・・。戻ったら、どうなる?」
ユウキは、魔法が使えるのか気になってしまった。
精神は、フィファーナで戦闘を繰り返した記憶がある。しかし、身体が小さくなっていることから、自分が夢を見ていたのではないかと心のどこかで考えてしまっている。首を振って、愚かな考えを頭から、心から弾き飛ばす。
「”鑑定”」
無詠唱で発動するが、声に出して、自分自身を鑑定した。
年齢以外のステータスは、フィファーナで”魔物の王”を倒したときと変わっていない。スキルも問題はなさそうだ。指先を見つめて、生活魔法の”着火”を行う。
魔法の発動には問題はない。魔力が減って、補充も大丈夫だ。
転移で消費した魔力も1時間程度で充填できそうな速度だ。
「レナートに居るときよりも、回復が早いな。魔素の濃度が高いのか?ヒナ辺りに聞けば・・・。魔力の残量を考えると、戻れそうだな」
転移魔法を発動するが、場所の指定や時間指定が選択できない。
「どういうことだ?あっ!未来には行けないのか?」
ユウキは、地球に来る時に、2時間後の時間を設定した。
「しまったな・・・。2時間も時間ができてしまった。時間が過去から未来に繋がっていると考えて、過去に行けるのなら、未来にも行けると思っていたけど・・・。難しい理論は、頭がいい先生たちにお願いして・・・。それにしても、7歳も若返ってしまった」
鑑定で出てきたステータスを見てつぶやいている。
「戻ったときにどうなるのか・・・。考えても意味はないな。サトシとマイも、一度は戻った方が良さそうだな。15歳か・・・。セシリアが確か、15歳だったな。アメリアが13歳だったはずだ・・・。セリシア辺りは喜びそうだな」
服装は、転移してきた時に着ていた物だ。
サイズが合っていないが、自動調整機能が働いて、15歳の身体にもフィットしている。
「この服だけでも、地球だと大騒ぎだな。2時間を有効に使いたいけど・・・。何をしようか?」
ユウキは、生活魔法の次に皆から絶対に確認して欲しいと言われていた魔法を確認する。
「おっ。アイテムボックスも大丈夫だ。中身も、問題はなさそうだ」
ユウキは、サンドラが作ったポーションを取り出した。
「たしか、サンドラのポーションは、植物の成長を促進させる物だったな」
一人で居るので、全部が独り言になってしまっている。
生活魔法が使えたので、魔法は大丈夫だろうと判断して、アイテム類をためしてみることにした。
転移してきた場所から山の方に移動した。山道を上がっていけば、山頂に出られる。
ユウキは、身体強化の魔法を発動して、山道を駆け上がる。登山道として小学生でも登ることができる山など、今のユウキには近くの公園に散歩に行くよりも容易い。通常なら20分程度必要な山道も2分程度で到着した。
山頂には整備された展望台があるが、展望台から離れた場所にある、枯れかけている紫陽花にポーションを少しだけふりかけた。
「お!」
ポーションをふりかけた紫陽花が成長して青々とした葉っぱを付けた。アイテムボックスの中に有ったポーションはサンドラが作った特別なポーションなのだが、フィファーナで一般的なポーションも地球で使えることが解った。
「あとは・・・。そうだ!」
ユウキは、時間ができたために、いろいろと検証を行うことに決めた。
ダメだと解っていても試してみたいのが、”念話”だ。
登録している者との会話が可能になるスキルだ。ユウキは、29名の他にセシリアとアメリアが登録されている。セシリアとアメリアは、ユウキたちと”念話”を行うために、スキルの取得を行った。
「念話はダメか・・・。無理もないよな」
念話スキルを発動すると、”念話”で会話が可能な者が表示されるが、誰も表示されない。
「それにしても、魔素はどうなっている?」
スキルや魔法を発動すると、魔素が消費される。
地球には、魔素が”ない”と、ユウキたちは考えていた。そのために、アイテムボックスとは別に、ポーチにユウキの魔力を全回復できるだけのマジックポーションを詰め込んである。
「ポーションが無駄になったな・・・」
ユウキは、ポーチに入っていたマジックポーションをアイテムボックスに入れ直した。
ポーチは中身が拡張されているが、それでも時間は経過してしまう。マジックポーションは、すぐには劣化しないが、それでもアイテムボックスに入れておけば劣化の心配はなくなる。それだけではなく、ポーションを割ってしまう心配もなくなるのだ。
「そうだ!ペットボトルを持って帰られるか・・・。試してみるか?瓶では割ってしまうけど、ペットボトルなら割れる心配をしなくていい」
ユウキは、独り言のようにつぶやいて居るが、日本円を持っているわけではない。
コンビニや自動販売機で、ペットボトルを補充できるわけではない。
「時間があるから、町に行ってみるか・・・」
思い立ったら吉日。
ユウキは、夕方に差し掛かろうとしている浜石岳から、町に向って歩きはじめた。
スキルの影響を無くして、15歳の頃に感じていた速度で移動をはじめた・・・。
「お!車だ!」
目に入る物全部が懐かしい。
「そうだ!自動販売機のゴミ捨てなら・・・。ダメかな?」
まず、田舎町の山に通じる道だ。
自動販売機が見つからない状況が続いた。
道を海に向って進んでいく、道に迷ったら転移すればいいと簡単に考えていた。
1時間ほど歩いて、自動販売機を見つけたが、缶だけしか無く、ゴミ捨てにもペットボトルはなかった。
「次だな。別に土産が必要なわけじゃないから・・・」
一つだけ動かしていたスキルに反応があった。
探知系のスキルで、ユウキの場合は生命に反応するスキルだ。
「あ・・・。猫か・・・。そうだった、地球の猫はいきなり襲ってこないし、魔物化の心配もなかったな」
フィファーナにも猫に似た動物は存在している。しかし、動物は魔物化していると、襲ってくる可能性がある。なので、生命探知にヒットした場合には警戒しなければならない。魔物を探知できるスキルもあるが、ユウキは持っていなかった。
探知スキルを使っているのは、人に会わないようにするためだ。
知人に見られてしまうと、これからの計画に齟齬が出てしまう可能性がある。問題にはならないとは思っていても、可能性が”ゼロ”では無い限りは、避けたいと考えての行動だ。
「腹が減ったな・・・。アイテムボックスの中身を、サトシとマイに渡さなきゃよかったな。ポーションじゃタプタプになるだけだな・・・。トイレは、ヘルスケアのスキルで持たせられるけど・・・」
ユウキは、時間を確認したが、約束の2時間まで30分ほどのギャップがある。
ユウキは、検証を行って忘れてしまったことがある。今のユウキは15歳相当になってしまっている。
このままフィファーナに帰ったら、確実に”笑われる”それだけではなく、今まで、アメリアの猛烈な交渉を交わしてきた”言い訳”の一つが消えてなくなる。