「ユウキ。会見の場所はわかるのか?」
「サトシ・・・。マイ。任せた」
「はい。はい。サトシ。場所は、この前、皆で見に行ったでしょ?」
「え?どこ?」
「はぁ・・・」
皆が笑い出すが、サトシは本当にわからないという表情をしている。
マイやユウキも悪い。記者会見を行う場所を、見に行ったわけではなく、近くの公園から記者会見を行う建物を見ただけだ。
「ユウキ。今日は、公共機関を使うのだろう?バラバラに行くのか?」
「いや、俺とサトシ以外は、偽装した状態で、纏まっていこう」
都内の(オリビアが熱烈に希望した)秋葉原にあるホテルから、29人の中学生くらいの男女が出てきたら目立つ。さらに、先頭を歩く5名以外は日本人ではない。秋葉原では珍しくもない外国人だが、纏まっているのはやはり稀有なことだ。
それだけではなく、”そこそこ”美形が揃っている。10人すれ違ったら、4-5人は振り返るだろう。
「ユウキ!山の手ラインを使うのか!」
「レオン。この前も使っただろう!」
「ユウキ!この前は、昼過ぎで空いていた。この時間なら、満員電車に乗れるだろう?」
「はぁ・・・。何が良くて、満員電車に乗りたいのかわからないけど、今日は休日だから、そこまでは混んでいないぞ」
「なに!念願の日本で、新幹線にも乗れなくて、あの秩序で満たされた空間を・・・」
「フェリア。そのバカを頼む」「はぁ・・・。レオン。また来ればいいよ。ユウキ。いいよね?」
「そうだな。片付いたら、皆で各国を回ろう。墓参りも必要だろう」
皆がお揃いの印章が入った物を見つめる。それぞれの施設で、召喚される前に撮影された写真を貰ってきた。それを、合成して一枚にした物が入っている。お守りであるし、今日の会見を”見せる”意味が強い。
「(やっとここまで来た)」
ユウキたちは、正面ではなく裏口から入るように指示されていた。
「今川さん」
「おっ・・・。あっ。そうか、揃っているな」
今川には、偽装前を見せているので、戸惑っているが、ユウキとサトシ以外は、偽装すると宣言していたのを思い出した。
「本当に、わからないな」
「服装もわざわざ揃えたので、余計にわからないと思います」
「そうだな。まぁユウキが説明して、サトシが最後の締めをするのだろう?」
「そうですね。サトシは、聖剣を出して、鉄を両断するだけですよ。喋らせると、何を言い出すかわからないですからね」
「わかった。控室まで案内する。ユウキは会ったことが有るだろうけど、編集長と上の人間だ」
皆に緊張が走る。偉い人に会うのは、緊張するようだ。
「大丈夫。気のいいおちゃんたちだ。将軍とか伯爵だと思えば大丈夫だ」
「今更ながら、お前たちの感覚がわからんよ。将軍って、言い方が悪いけど、幕僚長だろう?貴族は居ないけど、上級国民様だろう?」
「えぇそうですね。いきなり攻撃性のスキルが飛んできたり、ナイフを投げられたり、毒が入った飲み物を飲まされそうになったりしないので、安心していますよ」
「俺は、お前の感覚が怖いぞ。まぁいい。適当に挨拶してくれ、ユウキは、最終確認をするぞ?」
「わかりました。レイヤ、エリク。サトシを頼む。マイ。皆のサポートを頼む」
「わかった。今川さん。控室は?」
「案内が来るから、ついて行ってくれ」
「わかりました」
ユウキだけが今川の後に続いた。29名は、案内に続いて控室に向かった。
「記者会見まで、まだ時間がありますが?」
「あぁすまん。ユウキと話をしたいと言っている人たちが居て・・・。な。すまない。断れなかった」
「そうだったのですか?打ち合わせは、それだけですか?」
「想定問答もあるけど、必要か?この打ち合わせと、もう一組合せたい人たちが居るだけだ」
「俺は、大丈夫ですよ。一応、マイとアリスに渡しておいてください」
「わかった。あっここだ」
「え?」
今川がユウキを案内した場所は、食堂に隣接している個室だ。
防音が施された部屋で、他に聞かせたくない話をする場合に使われる。
備え付けられているインターホンに今川が近づいて、認証を通す。
「今川です」
ロックが外れる音がしたので、今川がドアを開けて、ユウキを中に入れる。
部屋には、10名くらいの大人たちが豪華な椅子に座っている。そして、ユウキたちが渡したポーションや物質を持って居た。
「君がユウキ君かね?」
「はい」
「私たちのことは、研究員だと思って欲しい。それから、わけがあって所属や名乗りをあげられないが許して欲しい」
中央の人物が、立ち上がってユウキに確認をしてから、謝罪の言葉を口にする。言葉では誤っているが、態度は横柄なままだ。
「かまいません。それで、なにか、俺に”聞きたいこと”が、あると伺いましたかが?」
「まずは、勝手なことだが、お願いを聞いてくれるか?」
「俺にできることで、仲間や家族に被害が及ばないのなら・・・」
「それは政府にも約束させる。安心して欲しい」
「わかりました。それで?」
「ポーションを数本・・・。都合することは可能か?」
「それは、”売って欲しい”ということですか?」
ユウキは、”売れ”という言葉を飲み込んで、少しだけ丁寧な言葉にした。政府と口走ったことから、権力側の人間だと判断したのだ。
どんな話になるのかわからなかったので、丁寧に接しようと思っていた。研究所と言っているのは、間違いでは無いだろうと判断している。全員が、”研究をしている”か、怪しいとは思っている。時間が無いと言っているが、ユウキが知らされている時間までには、3時間以上ある。
「今川さん。これが、謝罪の理由ですか?」
今川が頷いたのを見て、状況が解った。
「今川さん。皆の所に戻ってください」
「いいのか?」
「はい。向こうに行かれると、サトシが・・・。ビルを壊すと困るので、マイやアリスやヒナが止めてくれるとは思いますが、確実ではないので・・・」
「わかった。それでは、教授。私は、ひとまず退室いたします。ユウキとの交渉には、関わりませんので、よろしくお願いします」
「あぁ」
中央の男性が、今川に横柄な態度で退室の許可を出す。今川は、ユウキに相手の素性を”教授”と伝えた。
「それで、ポーションは有るのか?」
「ありますよ。いくらで買ってくれますか?」
「なに?」
「そうでしょう。傷口にかけたら、瞬時に治すような薬ですよ?中級も試されましたよね?骨折くらいなら治ります。上級はお渡ししていませんが、内臓の損傷を治します。俺たちが試した時には、片方の肺が潰れた状態から回復しました。日本の・・・。いや、現在の医療で同じことを行うとしたら、いくら必要ですか?俺が言っていることはおかしいですか?」
「・・・」
「どうですか?」
「に、日本の為に使ってくださいとは思わないのか?」
「は?日本が俺に、俺たちに”なに”かしてくれましたか?その分は、ポーションを提供してお返ししたと思いますが?」
「な。子供が!」
「はい。はい。それは、いいですよ。それで?買うのなら、交渉に応じますが、違うのなら、早く要件を言ってください」
ユウキは、椅子に座り直して足を組む。子供が大人ぶっているようにしか見えないが、スキルの”覇気”を使っている。限界まで弱めた覇気だが、目の前に座っているような人間たちには十分だ。
「(そうだ。せっかくだから実験でもするか?)」
今まで、対人スキルの実験は身内に限っていた。特に、異常状態を相手に付与するスキルは検証していなかった。
部屋の隅にカメラが設置されている。ユウキは、この状況を使って確認しようと考えた。
座っている大人たちが、何やら文句を言っているのを聞き流しながら、スキルを使った。
「(スリープ)」
ユウキは、睡眠の対人スキルを使った。極々弱く使った。全員が一度に寝なかったことから、少しだけ強めて、スキルを発動した。
隠されているカメラには気が付かないフリをして、部屋から出る。