「何の話してたの?」
「えっと。キリタニさんに昨日、ちょっとお世話になりまして。そのお礼を言ってました」
「お世話?」
「空腹で倒れていたら、ご飯を恵んでくれました」
「またご飯!?」

 そこで一斉に笑いの渦が起こる。

「さすがのミズキチちゃんだわ」
「でもすごいね? あの桐谷くんが助けてくれるなんて」
「凄いんですか?」

 すごい、の意味がわからず、こてりと首を傾げる。

「そう。営業二課の間では一番の有能株って言われてるような人だよ。ホープだよ。あれ? ミズキチちゃん、桐谷くん知らないの?」
「キリタニさん……桐谷郁也さん?」
「そうだよその人! え、本当に気付いてなかったの?」
「はあ……気付きませんでした」

 桐谷郁也さん。
 私と同じ時期に入社した人。
 営業成績は常に優秀。期待のホープって言われ始めているのは、もともと営業成績が下ランクだったのに、並々ならぬ努力で急激に這い上がってきた若手社員だから、らしい。

 名前だけは知ってた。
 今まで喋ったり、関わった事は無かったけれど。
 あの人がそうだったんだ。

「彼、どんな感じだった?」
「どんな感じ……とは?」
「桐谷くんって、ほら。女嫌いでちょっと有名だから」
「……オンナギライ……?」

 聞き慣れない単語に、もう一度首を傾げる。