花びらが舞うように、水森はふわりと微笑んだ。
 ご飯を食べてる時の笑みとはまた違う、きっと本来の素の笑顔。

 ……ここで全開の笑顔とか、ほんと反則だ。

 コートのポケットに手を突っ込んだまま身を屈める。彼女の吐息を唇で感じながら、そっと熱を落とした。
 すぐに顔を離せば、無表情のまま赤面してる水森の姿がある。
 違和感がありすぎて、なんか笑えた。

「ふ、不意打ちはズルいと思います」
「そっちもな」
「え?」
「そろそろ帰る」
「え、あ、はい。おやすみなさい」
「うん。おやすみ」

 ゆっくりと扉が閉まる。施錠する音を確認してから、俺もその場から歩き出した。
 頬を撫でる夜風はひやりと冷たくて、でも心は温かい。
 スマホを取り出して時間を確認すれば、もう22時を回っていた。

 水森といると時間が経つのが早い。
 自宅から着信があった事にすら気付かなかった。

 車に戻ってから自宅に電話を掛け直そうとして、けれど突然ラインの通知音が響く。
 その相手先の名前を確認して、つい口元が緩んでしまった。

「……律儀すぎる」

 彼女らしいシンプルな文面に苦笑しながら、俺もシンプルな一言を打ち込んでから送信した。



(本編・了)