マンションに辿り着き、水森が助手席から降りる。
 その姿を見届けてから、俺も運転席を降りた。
 そのままお別れだと思っていたらしい水森は、俺の行動に首を傾げているけれど。

「部屋の前まで送ってく」

 そう告げて手を差し出せば、水森は戸惑いつつも、おずおずと手を差し出してくれた。
 緩く握った手は滑らかな曲線を描いていて、温かくて柔らかい。
 頬を染めながら唇を結んでいる水森は、なんというか、とても可愛かった。

 彼女の部屋は3階にある。
 さほど遠い距離でもない。
 だから手を繋いだところですぐ離さなければならないけど、彼女の特別なポジションに立てた事が嬉しくて、その立場を実感したかった。
 そんな格好悪いことを言う勇気もなく、マンションの中に足を踏み入れる。

 エレベーターを素通りしてわざと階段を使うあたり、わかりやすいなと自分でも思う。
 3階の上り口に着く頃にはお互い息が上がっていて、間抜けすぎて少し可笑しかった。





「今日は、誘ってくれてありがとうございました」

 部屋の前に着き、水森が俺に頭を下げる。
 こんな時でも彼女は丁寧だ。