ずっと駐車しているわけにもいかず、一度手を離して、ハンドルをきって車を動かす。
街灯が照らす道のりを辿っていけば、その先にあるのは本来の目的地だ。
「……はあ」
聞こえてきた溜息に視線だけ向ければ、水森が長く息を吐いて、背もたれに深くもたれかかっていた。
夢見心地のまま、瞳が眩しそうに細められる。
「夢みたいです」
「ん?」
「片想いで終わると思ってたので」
「……そっか。じゃあ、言ってよかった」
「……キリタニさんは、入社時から人気があったので。仲良くなる前は、遠い存在の人みたいに思ってました」
「前から俺の事知ってたのか?」
「名前だけは知ってました。まさかあの時助けてくれた人が、そのご本人だとは思っていなかったけれど」
「あれは、びっくりした」
「思えば、すごい出会い方でしたね」
微かに笑う気配がする。運転しているから仕方ないとはいえ、貴重な笑顔を拝見できなかったのが悔しい。
その後といえば、出会った頃の思い出話に花が咲いて、気まずかった空気はいつの間にか消えていた。