逆に水森の方は、俺に気持ちを伝えようという意思は持っていないように感じる。
 だから俺から伝えないと。
 でなければ、いつまでたっても俺達は平行線のままだ。

「……あ」

 思考を巡らす俺の傍らで、彼女が小さく言葉を発した。

「……日経新聞見るの忘れてました」
「あ、俺買ってきた。見る?」
「はい」

 一旦、路肩に車を停める。後部座席に置いてある買い物袋に手を伸ばし、目的のものを彼女に手渡した。

「あの」
「ん?」
「この漢字、何て読むんですか?」
「どれ?」
「これです」

 彼女が指し示した箇所を、覗き込むように体を傾けた。
 そうすれば当然、互いの顔も近くなる。
 ひとつのものを2人で一緒に見る、その距離の近さが嬉しいなんてほんと重症だ。

「……っ、すみません」

 この狭い車内で、相手の事を意識してしまうには十分すぎる距離感。すぐ間近で目が合ってしまい、水森が焦ったように視線を逸らす。
 そのまま新聞を握ったまま、俺から離れようとした。

 咄嗟に彼女の手を掴む。
 引き止めるかのように握り締めて。
 告げた。

「好きだ」

 ……言った。
 直球過ぎた。
 けど言葉を選んでる余裕なんて今は無い。

 張り詰めていた空気が瞬時に変わったのを、肌で感じ取る。
 俺の突然すぎる告白に、水森は戸惑いの表情を見せた。