水森が事前に予約をしてくれたレストランは、床以外は一面ガラス張りの、深海に染まる蒼の空間が広がっていた。
何十種類もの色とりどりの魚が、視界全体を悠々と泳いでいる。
その光景は圧巻としか言いようが無い。
客の目線は食事よりも外に釘付けになってしまって、それは俺も水森も同じだった。
まるで海の中にいるんじゃないかと錯覚してしまうような造りに、感嘆の息が漏れる。予約制にしなければならない程の人気なのも、納得がいった。
ずっとここに来てみたかった、そう告げる水森の表情に、相変わらず笑みはない。
けれど、蒼を映し出す瞳はきらきらと輝いていて、頬もほんのりと紅潮している。声も嬉しそうに弾んでいて、その様子は確かに普段より、子供っぽい。
でも、冷めたなんてひとかけらも思わなかった。
むしろ、もっと笑ってほしいとすら思う。
できれば他の誰でもなく、俺の前だけで。
その権利を得る為にも、やっぱり彼女に気持ちを伝えないといけない。
・・・
手首にはめた、蒼の結晶の輪。
ターコイズのブレスレットの感触を確かめるように、水森が指先でなぞっていく。
「本当にありがとうございます」
「いや。今日付き合ってくれたお礼だから」
「私、パワーストーン好きなんです。すごく嬉しいです」
「喜んでもらえてよかった」
海中レストランで昼食をとり、その後はイルカやアシカのショーを見て、夕方に閉館。そのまま近くのレストランで食事をして、今はその帰り。時間は既に20時を過ぎていた。