「……っ、」
俺を見上げてきた水森の顔は、珍しく驚きに満ちていて。
そんな彼女の顔を俺も直視できなくて、そのまま手を繋いだまま歩き始めた。
水森も抵抗することもなく、俺に手を引かれる形でトコトコとついてくる。その動きが小動物みたいで可愛かった。
思わず頬が緩んでしまう。
水槽に映る互いの顔が若干赤く見えたのは、きっと気のせいだと思いたい。
「……腹減った」
「……え。あ、そうですね。もうお昼です」
「何か食べる?」
「はい。あの、」
「うん?」
「隣の港に船があったんですが、気づきましたか?」
「船?」
突然、何の話かと思いつつも頷く。
確かに、入館する時に見かけた気はする。
「そこ、船上レストランなんです」
「へえ、そうなんだ。そこで食べる?」
「あ、いえ、あの」
「ん?」
珍しく、煮え切らない言い方。
水森のこんな態度は滅多に見れない。
「その船の中が、海中レストランになってるんです」
「そうなんだ」
「それで、海中の方は予約制になってて」
「ふうん。人気なんだ?」
「はい」
「もしかして、もう予約してあるの?」
「そう、です」
「それは知らなかった。もしかして水族館に誘ったのって、海中レストランが目当て?」
「……はい」
「はは。水森らしいな」
失礼な言い方になるけど、初めてのデートに水森が水族館をセレクトしたのが、彼女らしくない印象があって気になっていた。けど、そういった理由なら納得できる。
事前予約しなければ入ることができない、人数制限のあるレストラン。
食べることが大好きな水森が食いつくのも、当然かもしれない。