マンション前に着き、LINEを送る。
 数分後に部屋を出てきた水森は、花柄のカットソーにクロップドパンツというカジュアルな格好だった。
 見た目よりも動きやすさを重視した機能性。
 ワンポイント的に添えられたブルーストーンのネックレスやブレスレットが目をひいて、センスの良さを感じさせた。

 花柄のチャームが付いたトートバックを抱え、彼女が助手席に乗り込む。
 爽やかな香りが車内に舞い込んだ。

「やっぱり花柄なんだ?」
「そうですね。昨年に続いて、今年も大柄な花模様のファッションが女性に流行ると思います。ひまわりとか、ハイビスカス系ですね」
「へえ」

 車内で盛り上がる話題はやっぱりというか、仕事の事。
 休みの日までこんな話を持ち出さなくても、そうは思っていても、目に付くものは全部仕事関連に繋げてしまうのがお互いの性だった。
 これはもう、俺も水森も基本仕事人間だから仕方ない。職業病ってやつだ。

 何か、可愛いとか服似合ってるとか、一言あってもよかったかもしれない。そこまで気が回らなかった事に、後悔を抱く。
 けどもう今更な感じがして、結局何も言えなかった。



・・・



 週末の水族館は、結構な人で溢れていた。
 特に家族連れが目立っていて、ちらほらとカップルの組み合わせも見かける。
 自分達も周りからそう見えるのかと思ったら、少しむず痒い気分になった。

 視界全体を見渡すほどの水槽には、大小様々な魚の群れがゆらゆらと優雅に泳ぎ回っている。
 2人でその光景を眺めていた時、頭上に大きな影が落ちた。

「水森、上にジンベエザメいる」
「わあ。でかい」
「あんなの、どうやって水槽に入れるんだろうな」
「ジンベイザメって焼いたら美味しいんでしょうか……」
「……さあ」

 焼き魚にするつもりなのか。