水森とはこれまで、色々な話をした。
 けれど、恋愛に関して話題に上がった事は一度も無い。
 お互いになんとなく、その話題を避けてきた部分もある。
 明確に問いかけたのは、これが初めてだ。

 視線の先にいる水森は相変わらず、表情の変化が見られない。彼女から感情を読み取るのは、なかなか至難の業だ。

 気まずさの残る空気が、緊張を増幅させる。
 暫しの沈黙の後、彼女は首を横に振った。

「いないですよ」
「……そうなんだ」

 途端、肩の力が一気に抜ける。
 その返答に、心の底から安堵している自分に気がついた。

 ここでこんなに安心するということは、つまり、俺はきっとそういう事なんだろう。
 彼女に対する想いには薄々感づいてはいたけれど、今この瞬間、はっきりと自覚した。俺は水森が好きなんだ、って。

「……私、長続きしないんです」

 か細い声が聞こえたのは、そう自覚した直後。

「学生の頃に、お付き合いしていた人はいるんですけど」
「うん」
「いつも、すぐフラれちゃうんです。私には、きっと恋愛は向いていないんだと思います」

 その、どこか冷めきった発言に違和感を覚えた。