「……水森って仕事は積極的なのに、株は消極的だよな」
「だって、お金絡んでますから」
「まあそうだけど」
「株で一億円稼ぎたいです」

 真顔ですごい事言ってきた。

 株に興味のない奴から見たら、こいつら何の会話してんだと突っ込まれかねない勢いだ。株投資はギャンブルに似た要素もあるから、なかなか人には話せない内容でもある。
 その上、この不景気で騒がれている昨今だ。

 実際にお金が絡んでくるとなれば、株に手を出す事を躊躇する人も多い。
 現に俺の周りで、株投資をしている人は誰もいなかった。水森の周辺も同様らしい。

 最近では、仕事よりも株の話で盛り上がることも多くなった。
 株式は日々マーケットが変動しているから、会話のネタに困ることが無い。
 更に言えば互いに経験も知識もあるから、株の戦略だのトレードだの、様々な観点から話が白熱する事もある程だ。水森と話すのは本当に楽しい。


 ―――すれ違ったら話す程度だよ。


 不意に、今朝の同僚の言葉が蘇った。

 俺と水森は既に、すれ違ったら話す程度の仲以上だと、俺自身はそう思ってる……けど。


 ―――誰とでも仲いいし。友達多いんじゃない。


「………」

 友達が多い水森にとって、俺もその友達のうちの一人、なんだろうか。


 ―――人気あるぜ、あの子。
 中には狙ってる奴もいそうだけどな―――


「……水森ってさ」
「? はい」
「今、付き合ってる人とかいる?」

 突然の話題転換に目を丸くしている彼女を、ただ黙って見つめ返す。
 カラン、と氷の弾く音が、静かに鳴り響いた。