水森は元から投資に興味があったらしい。早い段階で株に目をつけ、学生の頃からバーチャルトレードを始めていたようだ。
 興味本意で始めた俺とは違い、彼女の場合は完全に実践向け。いずれ、実際の株投資をする為に、バーチャルは練習用に始めたらしい。

 社会人になってから実際に手を出し、今に至る。

「利確も考えなきゃですね」

 彼女にしては随分と弱気な発言だった。
 ついグラスを持つ手が止まる。

「もう? 夢ないな。プラ転したらすぐそれか?」
「まだ売らないけど……目標値がないと不安です。30万超えで一旦利確するのか、35万ラインまではホールドするのか、とか」
「いざ上がりだしたら難しいからな。トレンド変換したら売りたくなくなるし」
「買いだけでは儲からないですからね」

 彼女の一言に頷く。
 実践経験はまだ低いとはいえ、共に仮想空間で数年学んできた投資家同士、知識の幅もそれなりに広い。

「売り時期って難しいよな。決断に迷う」
「買いのタイミングが良くても、売り時外したらマイナスになっちゃいます」
「うん。けど、来週には調整入りそうだけど」
「まだ売らない方がいいですか?」
「勢いありそうだし、売る時じゃないと思う」
「うーん……」

 いつも即決断が通常の水森だが、こと株投資となれば、頭を悩ませる一面もあるようで。