「……いつも思うけど、営業の効率化を図る為に改善する余地はまだ多いよな」
「マーケもIT化が進んで、精度の高いメッセージを各方面に展開できるようになりました。営業の皆さんが仕事しやすいように、私ももっと頑張らなければいけません」
「水森は十分頑張ってるだろ。かなり有能だよ。すげー助かってる」
「私が有能だとしたら、きっと先輩方のお陰です」
さりげなく上の立場の人間を立てるのも忘れない。誰が見ていなくとも、だ。謙虚な姿勢を崩さないのも、彼女らしいと言える。
こうして豊さんの店で話すのも、もう何度目だろうか。
いつもの特等席で隣同士に座り、今日も今日とて仕事の話題で盛り上がる。
「でも、キリタニさんは本当にすごいです。あの情報ひとつでA社と独占契約まで結んでしまうなんて驚きです」
「事前に情報をくれた水森のお陰だよ」
「そんなことないです。数字だけを見ている人には絶対に出来ない行動だと思います」
この話題に移れば、彼女は途端に俺を褒めちぎる。
けど、本当に大した事はしていない。
というか、営業すらしていない。
俺ですら、A社と契約を結べるなんて微塵も思っていなかったんだ。