水森曰く、俺は『ご飯仲間』らしい。
グルメ友、略してグル友とも言っていた。
そう呼び合う程に、彼女とは仕事上がりに会う機会が増えている。大体週2、3回ほどのペースで、夕飯を共にする仲になっていた。
豊さんの店で待ち合わせをする日もあるし、美味しいと評判の店を見つければ、一緒に足を運ぶ事もある。出向く先の殆どは、多くの客で賑わう大衆居酒屋がメインだ。高級感のある静かなレストランは、彼女はあまり好まないらしい。
その理由は単純で、
「一皿に乗ってる量が少ない上に、追加注文がしずらい空気だから」
らしい。本人がそう言っていた。
いかにも彼女らしい主張だ。質より量派、ということだろう。
夕食を共にしながら話す内容といえば、ほとんどが仕事の事。
共通の話題で盛り上がれるのは、やっぱり営業とマーケの情報だった。
こうして話を聞く限り、水森はかなりの勉強家だとわかる。特に流行りものに関しては、誰よりもいち早く真新しい情報を仕入れてくる。食やファッション、遊びにエンタメなど、そのジャンルは多彩に渡る。世間のニーズや動きに、常にアンテナを張っているようだ。
それだけではない。
更に過去のデータから換算し、次に来る流行ものの予想立てをするのも、彼女の得意分野でもあった。
それだけ情報に精通していれば、マーケターとしての能力も十分高いのが窺える。
彼女の情報収集能力の高さには、毎度舌を巻く。
顧客の好みやターゲットを絞る上で、水森が持つ情報と知識は、俺が営業を成功させる為の必要不可欠な要素となっていた。