「すごいです、あのA社だなんて。上層部の方々はみんな諦めていたと、課長が言ってましたよ」
「持ち上げすぎだって」

 そもそもこれは、水森の情報があってこそだ。
 彼女が事前に教えてくれなければこの契約も無かったし、A社と繋がりを持つことすら出来なかった。

「そのお話、ぜひ聞かせてください」
「いいよ。じゃあ今日の夜、いつもの場所で」
「はい。楽しみにしてます」

 そう言って、水森は俺から離れた。
 他のマーケ社員と挨拶を交わし、共にエレベーターへと乗り込んでいる。

 1人置いてけぼりをくらったような心境に陥っている俺は、その後もモヤモヤとした気分を抱えたまま、定時までの時間を過ごした。