水森さやかは基本的に笑わない。

 と言っても、不機嫌だとか愛想が無いわけではない。どちらかといえば社交的な性格で、誰かと会話を弾ませている姿も社内でよく見かける。
 嬉しいときは頬がほんのり紅潮するし、びっくりした時は目を少し見開いて表情も僅かに変わる。すごく、わかりづらいが。

 いつも無表情に近いが、それでもひとつひとつの感情に、僅かばかりの表情の変化はある。ただ微弱な変化なので、所見だとなかなか気づきにくい。
 本人が喜んでいても笑みにならない程だ。
 つくづく、変わった子だと思う。

 見た目は可愛い。
 背も小さい。
 喋り方が舌足らずなのは、人に―――特に女子に反感を抱かれやすいが、水森の場合、まず男に媚を売らない。
 それでいて、あのサバサバした性格の持ち主だ。同性に嫌われるような要素が見つからない。

 また、彼女はたまに変な発言をする。
 変というのは、例えば親父ギャグを連発したり下ネタトークを展開させたり、男以上に漢らしい発言をしたり。顔に似合わず言う事がズレていて、大胆だ。

 そして行動にも迷いが無く、常に淡々としているのが水森だった。

 例えば夕飯のメニュー然り、服装然り。女が延々と悩んでいそうな事も、彼女の場合はまず迷う事がない。決断力が異常に早く、目の前にある課題や問題事も、難なくサクサクと裁いていく。

 その清々しさと言ったらない。
 優柔不断ではないという事だろう。