何十年と続いている営業とマーケの確執を、無かったことにするのは正直難しい。社員の意識を変えるなんて壮大なことすら、やり遂げられるイメージが全く湧かない。
それでも、できることはある。
情報共有と相互理解で成約率が跳ね上がることを、俺達が数字で証明出来れば、あるいは。
「俺も今の状況に不満があった。伸し上がるチャンスがあるなら是が非でも欲しい。だから『利用してる』とか、そういうのは気にしなくていいよ」
チャンスが欲しい俺と、キッカケが欲しい彼女。お互い様と言えばお互い様だ。
俺は今よりも成績を上げる為に現状から抜け出したいし、彼女は自分に協力的な営業社員を欲している。互いに利害は一致しているんだ。手を組まない理由はどこにもない。
それに水森と手を組まなかったら、彼女は俺じゃない別の営業社員に目を向けるかもしれない。
それはなんとなく、嫌だと思ったから。
「……わたしは」
「うん」
「この会社が好きなんです。先輩達はみんな優しいし、学ぶことも多くて、上司の方々もいつも気にかけてくれます。社員食堂のご飯だって美味しいし、仕事もやりがいがあって楽しい。でも、100%満足してるわけじゃない。まだ、足りないんです」
「……」
『仕事が楽しい』
俺が、久しく忘れていた感覚。