『年功序列に関係なく、誰にでも気軽に相談できる職場環境を』
どこの会社でもそう謳ってはいるものの、実際のところは難しい。必ず上下関係というものは出来上がってくる。
特に組織絡みや人間関係の悩みは、先輩上司相手には相談しずらい内容だ。
現状に不満があり、問題点も明確で、解決策も持ち合わせているのに相談できる相手がいない。
それが、今まで水森が置かれていた状況だったんだろう。
同期であれば相談しやすい相手にはなるだろうが、去年入社した高卒者のうち、採用されたマーケ社員は水森だけだ。
周りに先輩しかいない環境下で、胸の内を吐露できる人がいるのかどうか。
そもそも『社員の意識を変えて、部門間連携ができる環境にしたい』なんて主張を、まっとうに受け止める人物がいるのかも謎だ。
自分の主張が通らないなら、目に見える実績を残して他人と差をつけるしかない。
結局会社っていうのは、確実に結果を出せる社員を優遇する。なら、堂々ともの言える立場にまで成り上がるしかない。その為には、まず自分の主張に理解を示してくれる仲間が必要になる。
だから水森は、俺にファイルを託した。
俺が自分にとって必要な人材かどうか、見極める為に。