それは忠告というより、彼女の身を案じて出た言葉だ。
アジュールは基本的に大卒者のみを採用している。高卒者を採用したのは昨年、つまり俺達が初めてらしい。俺と水森を含めて、確か5人いるはずだ。
ちなみに今年の採用者はいない。
つまり俺達に、まだ後輩はいない。周りは大卒の先輩だけだ。
一番立場が弱い下の人間が、上の人間に意見を主張するのはいささかリスクを伴う。
水森もそれをわかっていたから、上司でも先輩でもなく、同期の俺にファイルを見せてくれたのかもしれない。
「……気、悪くしましたか?」
「いや? 俺は全然」
「……よかった」
水森は安心したように胸を撫で下ろしていた。ファイルの内容が内容なだけに、ずっと不安な気持ちで苛まれていたのだろう。心の底からホッとした様子が、その表情からも読み取れた。
もし数年後にあのファイルを見ていたら、何か思うことはあったかもしれない。
でも今の俺はまだ、自分のことで精一杯な状況だ。営業とマーケの関係性なんて考える余裕も無い。何も染まっていない今だからこそ、あの問題を提示されても不快感を抱くことはなかった。
それよりも、別に気になったことがある。
「水森、悩んでる?」
「え?」
「あのファイルの中身を見たら、何か抱え込んでんのかなって思ったんだけど。違ったらごめん」