休憩スペースに足を運び、自動販売機で缶コーヒーを2本購入する。
彼女に差し出せば、目を丸くして俺を見返してきた。
「いいんですか?」
「どうぞ。1本じゃ、足りないかもしれないけど」
「……足ります。足らせてみせます。大丈夫です」
「……」
……こんなに信用ならない決意表明を聞かされたのも初めてだ。
壁を背に寄りかかり、プルタブを開ける。プシ、と耳に心地いい音がやけに大きく響いた。
隣に並んだ水森が、いただきます、と謝礼を述べてから口につける。
その様を見届けてから、俺もコーヒーを飲み込んだ。
周囲に人気はほとんど無い。
たまに社員が通り過ぎるだけで、人の賑わいは遥か遠く。
どことなく息苦しいような、ぎこちない空気が流れている。
「ファイルのことなんだけど」
沈黙に耐えられず口を開く。
ぴく、と水森の肩が震えた。
「ごめん、実は家に置き忘れてきたんだ。本当は今日返すつもりだったんだけど」
「え、そうだったんですか」
「来週でも大丈夫? すぐ必要なら、家に行って取ってくるけど」
「あ、いえ。大丈夫です」
慌てて彼女は首を振った。
でもその表情は、まだ強張っていて。
「……あのファイルさ」
「……はい」
「すごかった。俺は、ていうか誰もあんなこと、調べてもいないだろうし考えてすらいないと思うから。水森の着眼点にびっくりした。読んでて興味深かったよ」
「………」
「でも、今は俺以外の社員には見せない方がいいかもしれない」