翌日の社内は、どこも活気で賑わっていた。
おそらく華金が原因だろう。
今日を耐え抜けば、明日から世間は3連休だ。定時上がりに飲みに行く連中もいるだろうし、連休という解放感が、社員達の原動力になっている。かくいう俺も、同僚から飲みに誘われている身だ。
……水森も、誰かと飲みに行くのかな。
「あの」
「はい?」
「水森さんから借りていた資料の件で話があるんですが。本人、いるかな」
「……え?」
3階のオフィスを見渡しても水森らしき姿はなく、近くにいたマーケ社員に声を掛けてみたけれど。
彼女達は何故か一斉に、疑わしげな視線を俺に……、
いや、俺の背後へと向けていた。
「水森さんなら、すぐそこに、」
「え?」
「ここにいます」
「うわっ」
背後から聞こえてきた声に驚いて振り向けば、すぐ真後ろに水森が立っていた。気配に全く気付いていなかった俺の慌てように、周りからは小さな笑い声が漏れている。
一方の水森は、やっぱり今日も無表情で。
「……びっくりした」
「ごめんなさい。私、存在感が薄くて」
「………」
そんな返しを受けたのは初めてだ。
「あのさ、今って忙しい? 昨日の件で話があったんだけど」
「……大丈夫です」
トーンを落とした水森の声は弱々しい。
緊張で強張っているのか、表情も固い。
そんな彼女に内心戸惑いつつ、2人でその場を後にした。