「医者になりたいんだろ」
「……うん、ありがとう」
「早く寝ろよ」
「うん」
「ついでに、ソイツ叩き起こせ」
「え?」
首を傾げた春樹が、ソファーに寝そべっている"奴"の気配に気づき、納得したように頷いた。
3人掛けソファーの上。呑気によだれを垂らしながら、ぐーすかと惰眠を貪る女の子の姿がある。
俺より2つ年下で、春樹とは同い年。
訳ありな事情で居候しているいとこの頬を、春樹の手がぺちぺち叩く。
「もか、起きて」
「……む?」
「こんなところで寝たら風邪ひくよ」
「……むー」
もか、と呼ばれた女の子の眉間に皺が寄る。小さな手をぶんぶんと振り回し、必死に春樹を追い払おうとしている。不満そうだ。
意地でも離れんと言わんばかりに、ソファーに顔を押し付けて動こうとしない。
よだれ拭けよ。
「もか、プリンが待ってるよ」
「…………、ふあ、ぷりん!」
春樹の一言で覚醒し、即座に起き上がる。
小学生かお前は。
「あ、起きた。ほら寝るよ」
「プリンは?」
「プリンはないよ」
「へっ?」
「部屋戻るよ」
「……ふえ?」