「私、字が汚いから。読みづらいところとか、あるかもしれないけど」
「水森、これ何?」
「……キリタニさんにとっては、不快に思う内容かもしれません」
「……え?」
不穏な発言に、思わず眉をしかめた。
「……嫌われちゃうかも、しれないけど」
「え、水森」
目の前で、バスの入口扉が開く。困惑している俺に背を向けて、水森は逃げるようにバスの中へ乗り込もうとする。
けれど扉が閉まる寸前、振り向き際に彼女は一言だけ、
「今度があれば、次はマンションまで送ってください」
そう言ってくれたから。
「……わかった」
腑に落ちないまま、静かに頷いた。
その場からバスが静かに走り去っていく。
俺の手には、彼女から託された謎のファイル。
次の約束を取り付けられた……ような、うまくかわされたような、妙なモヤモヤ感だけが胸の中に残った。