ラーメン屋を出た後は、バス停まで2人で向かう。
味噌ラーメン3杯に続き、追加で注文したおにぎりとたくあんも全て食べ尽くした水森は、それはそれは大変ご満悦な顔だった。
「やっぱりマンションまで送ろうか?」
何度尋ねても、彼女は首を横に振る。
こんな時間まで付き合わせたのは俺なのに、せめて帰りぐらいは車で送ってあげたかった。その思いに下心は無い。
でも彼女は「大丈夫です」の一点張りだ。
頑なに拒否されてしまえば、従うほか無い。
車内という密室空間で、男と2人きりになる事に抵抗があるのかもしれない。
夜風で彼女の髪がなびく。
ふわりと、甘いコロンの香りがした。
遠くからバスのライトが近づいてくるのを視界に捉え、胸の中で生まれた焦燥感。
最後の悪あがきとばかりに、彼女に一言告げた。
「今度、またご飯食べに行こう」
「……」
「その時は送らせて」
水森は頷かない。相変わらず無表情だが、どこか不安げな瞳がゆらゆらと揺れている。
そんなに俺は下心があるように見えるのかと内心ショックを受けていた時、彼女は急にバッグの中身を漁り出した。
バスが停留所に到着すると同時に、水森が取り出したものは。
「……え、これ」
あの、付箋だらけのファイル―――
じゃない方の、白いファイル。
初めて見るタイプのものだ。
けど、付箋はひとつも貼られていない。
「これ、お家で読んでほしいです」
差し出されて、自然な流れで受け取ってしまった。