三大欲求のひとつを口にしてしまえば、仕事モードに入っていた思考は遮断され、腹を満たしたい欲求に支配される。多少の空腹なら耐えられるが、昼抜きはさすがに胃が堪えたようだ。
空腹状態が続けば、血糖値が下がる。
それはつまり、集中力や思考力の低下を招きかねない。脳が栄養不足になるからだ。
会社へ戻る前に、何かしら胃に入れた方がいいかもしれない。
「……公園に寄るか」
そう思い至った俺は、車が行き交う通りを抜けて進路を変えた。
高台へと向かえば、なだらかな傾斜地に一戸建ての住宅地が見えてくる。広い敷地に見事な植栽が並ぶ、落ち着いた場所だ。地盤が良い土地の証拠だろう。
陽は徐々に傾きを見せ始め、黒いアスファルトが紅に染まっていく。夕刻の闇が、閑静な住宅地を包み込もうとしていた。
車用時計は16時を表示している。
定時まで、もう1時間しか残されていない。
残業になるかもしれない。
暗くなる前に、会社に戻らないと。
そう思い直した、その時―――
「……?」
視界の端に映った光景。
道端に女の子が倒れていた。