「なあ水森」
「なんですか?」
「収入がいい職場で働きたいっていうのは、みんな同じだと思うんだ。俺だってそう思ってたし」
「はい」
「水森がアジュールに来た理由は、別にあるんじゃないか?」

 俺達の会社は特殊だ。

 絵画という、一般的に扱いが難しい商材を顧客に売る。名のあるクリエイターと契約を結び、展示会、そして販売会へと繋げる。
 口で言うのは簡単だが、相当なセールス力が無ければそれらは全て成し遂げられない。高額な商材ほど顧客は慎重になり、作家は悪質商法かと疑い、受注や契約に結びつかないケースも多いからだ。

 確かに絵画商材は難易度が高いが、成功すれば見返りか大きい。
 逆に言えば他社の方が、営業で成功する確率が高いという事になる。
 給料形態が歩合制であれば、成功率の高い職種の方が収入が大きくなる可能性も高い。
 『稼げる職場』だけが条件であれば、難易度の高いアジュールにこだわる必要はない筈だ。

 稼ぎたいからと水森は言うが、この会社を選んだ理由はそれだけじゃない気がした。

「キリタニさんは?」
「え、俺?」
「キリタニさんだって。今の会社にこだわる必要がないなら、アジュールに来た理由は別にあるんじゃないですか?」

 思わぬ切り返しを受けて、言葉が詰まる。

「……俺は、」







 ―――人と違うことがしたい。
 そう思ってた。


『1時間で、100万円の絵画を売る』


 誰もが見向きもしなかった。
 釣りだと鼻で笑っていた。
 詐欺だとアジュールを馬鹿にした。
 でも俺は魅せられた。

 あのキャッチセールスが本物なら、俺はもしかしたら、他の同じ年代の奴らでは成し得ない事ができるかもしれない。

 他人と違う道。目標。
 そこに、大きな魅力を感じた。