「今日はラーメンの気分です」
……結局のところ、グルメアプリで検索しまくった俺の努力は報われなかった。
まさかのラーメンをチョイスされ、一瞬固まる。さすがにリストには載っていない。それすらも想定外だった。
仕方ないので適当に街をぶらついてみれば、紺色ののれんがマッチした、庶民的な外観が目に入る。『ラーメンよろず屋』と書かれた扉を開ければ、威勢のいい店主の声が店内に響き渡った。
「あのさ」
「はい」
「水森は、なんでアジュールに来たの?」
俺の問い掛けに、彼女の顔が上がる。
目が合ったのは、ほんの一瞬。
水森の視線はすぐ、手元の割り箸の先に落ちた。
麺を掬い、そのままれんげに入れながらゆっくりと食している。その方が熱々の麺を冷ましやすいからだろう。
なんというか……女子の食べ方だな。
女子だけど。
傍らに避けられた空の器(2つ)を見る限り、その食べっぷりは全然、女らしくはないが。
「稼ぎたかったからです」
なんともシンプルな答えが返ってきた。
水森が注文したのは、野菜がてんこ盛りの濃厚味噌ラーメンと、味噌バターラーメン。今は辛味噌もやしラーメンを食べている。どちらも味がくどそうだが、彼女は気にする風でもなく、黙々と麺を啜っている。
思わぬ珍客で店の売り上げが倍増し、店の主人も機嫌がいい。輝かしい笑顔で来店客を明るく出迎えていた。