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「お疲れ様」

 研修が終わった後、水森が会議室から出てくるのを廊下で待つ。姿を見つけたと同時に声を掛ければ、振り向いた彼女は驚いた様子を見せた。
 それだって、表情筋に動きはほぼ無いが。

「キリタニさんも、お疲れ様です」
「うん。あのさ」
「はい」
「今、ちょっと話せる?」

 そう伝えれば、彼女ははたりと瞬きを落とした。

「今ですか?」
「いや、用事があるならいいんだけど」

 大した用件じゃない。
 例のファイルが気になっただけで。

 ……あと、少し話をしたかった。

「いえ、大丈夫です」
「ありがと。あー……どこで話そうかな
「聞かれたらまずいお話ですか?」
「いや。多分、それは大丈夫」
「では、1階のロビーで待ち合わせしませんか」

 彼女の提案に、俺も頷いた。

 清水課長の研修は17時から。つまり勤務外なわけで、給料は出ないが参加も自由となっている。セミナーならともかく、企業義務の一環として行われる研修が自由参加なのは珍しい。実際に参加を見送った人も多い。

 こんな時間まで残っていた社員とて、用が済めば早々に帰り支度を始め、早々にオフィスを後にしていく。営業時間外の社内に、人の姿はほぼいない。
 急いでロビーへと足を運べば、その場にいたのは水森だけだ。周囲には誰もいなかった。