正直、どういう人物なのかはわからない。
話す機会がないからだ。
女性社員からの人気が高いだけではなく、部下からも厚い信頼を得ている人物だという事は知っているが。
「マーケ、強制なの?」
「いえ、自由参加です。ですが、清水課長が講師を務めるのは珍しいので」
確かに周りを見渡せば、水森の他にもマーケ社員が数名混じっている。
「営業は強制参加ですか?」
「いや、こっちも自由参加。でもほら、相手があの人だからさ」
現場を離れた今でも、トップセールスマンとして名高い人物の講義だ。営業社員としては、是が非でも研修を受けたいところだろう。
……俺は正直迷ったが。
先輩社員が研修を受け、下の者が出ないというのもどうなのかと思い直し、今に至る。
参加しておいた方が得なことも、あるかもしれない。
「―――ここまでの説明で質問がある奴は、挙手してくれ」
清水課長の一言に、数人が手を挙げる。水森がそっと離れて姿勢を正したところで、俺も椅子を直して元の位置へと戻った。
小声での会話とはいえ、周りの迷惑になってはいけない。それに清水課長にも失礼にあたる。
その時ふと、視界に入ったもの。
水森の手に握られたファイルが気になった。
「……?」
ただのファイル、ではない。
おびただしい数のカラー付箋が貼られたそれに、違和感を覚えたのは一瞬のこと。
……なんだ、あれ。