もっと、成績を上げたい。
 その為にはどうしたらいい。
 そう考える度に、幾度とある研修に嫌気がさした。

 入社時の導入研修に続き、マネジメント研修、フォローアップ研修、外部講師の研修に講演会。
 それよりも早く外に出て営業がしたかった。
 基盤をしっかりと築く為に研修が大事だとは重々承知していたが、繰り返される教育制度が「新人の早期戦力化」を妨げているように感じてならなかったんだ。

 こんなことは会社の中ではなく、現場で学ぶべきことなんじゃないのか。

 社員がひしめく会議室の中。
 入社2年目以降も続く研修を受けながら、俺は小さく溜息をついた。

「……さん、キリタニさん」
「……!」

 聞き覚えのある声が背後から掛かる。
 途端に心臓が乱れ始めた。
 すぐに振り向きたい衝動を抑え込んで、静かに椅子を引いて振り返る。
 俺の斜め後ろに彼女がいた。

「水森も来てたんだ」
「はい。清水課長が講師なので」
「ああ、あの人ね」

 顔は彼女に傾けつつ、横目で視線を移す。グラスボードに映し出されたプロジェクターの映像を、マーカー片手に説明している男性。マーケティング部門統括マネージャーの清水課長だ。

 短大を卒業後、アジュールの営業社員として入社した清水課長は、僅か2年で歴代新人NO.1の成績を残した経歴を持つ人物だ。
 彼の成績を超えた社員は未だに無く、トップセールスマンとしての存在感は一際大きい。

 数年前に営業を離れ、マーケへ異動。
 課長へ昇進した今は、36歳だったか。