アジュールは「絵画」を扱う事業だ。
 『絵のある生活を提供する』ことを経営理念として掲げている。

 営業の商材は多々あれど、絵画を扱う企業は少ない。何故なら絵画は、生活必需品ではないからだ。生活にゆとりをもたらすインテリアにはなり得ても、無くて困る物じゃない。更に絵画は高額でもあり、特異且つ難易度の高い商材でもある。

 だからこそ俺は、アジュールという会社に興味を持った。


『1時間で、100万円の絵画を売る』


 この一文だけで理解した。「絵画」という、俺にとっては全く未知の商材で営業を成功させる為には、生半可な覚悟では到底実現できない事を。
 それだけに、アジュールの職場は仕事意識の高い人間が集まっている組織だという事も。

 純粋に惹かれた。
 挑戦したくなった。

 他人と同じ道には興味がなかったし、乗り越えるべき壁が高ければ高いだけ、やりがいがある。
 乗り越えた時の達成感を味わいたかった。
 もちろんアジュールが稼げる職場だという事も、入社した理由のひとつでもあるけれど。

 高卒ですぐアジュールへ入社した俺は、営業のいろはなんて当然知らない。
 だから研修やセミナーには積極的に参加したし、営業のノウハウ本も読み尽くした。部署の先輩方に頼み込んで、営業についてのレクチャーも受けた。
 実際、話を聞くのと実践するとでは天と地の差があったけど、頭に叩き込んだ知識を現場で学べるのは、何よりも自分の身になった。