「計算おかしいだろ」
「おかしくないです」
「いやおかしい。今この場に、俺と水森しかいないだろ」
俺の主張にも、彼女は表情を一切変えない。
……本当に笑わないな、この子。
「えっと。キリタニさんの分が1つで、私が5つです」
幻聴かと思った。
「……5つも食べるのか」
「8つは余裕です」
「……すごいな」
その小さい体のどこに、そんな量が入り切るほどの余裕があるのか。胃がブラックホールなのか。
「私の胃はきっとブラックホールなんです」
主張が被った。
「できたよーん」
能天気な声が降ってきたと同時に、3つ分の皿が運ばれてきた。さすがに6つ同時に運ぶことはできないようで、後で追加で持ってきてくれるようだ。
テーブルの上に並べられたチキンボロネーズは、じゅわじゅわと熱い音を弾かせている。湯気と共に漂う香ばしい匂いが、空腹感を誘う。
「へえ。見た目からして美味そうだな」
「とっても美味しいです。キリタニさんもきっと気に入ります。お先にどうぞ」
「じゃあ、頂きます」
促されて、フォークで切り分けたそれを口へと運ぶ。サク、と歯応えのいい感触の後に、肉の旨味と酸味と広がっていく。