そして彼女が向かった先は、一番奥まった2人掛けの席。
そこは客が来店しても、俺達の姿が見えづらい場所。
店内の配置を知り尽くしている水森だからこそわかる特等席に、俺達は座った。
「頼むもの決めようか。水森、何か先に、」
ぴんぽん。
俺が言い終わる前に、水森が店内の呼び出しチャイムを押した。メニュー板も見ずに。
「……」
何事かと固まった俺をよそに、例の女の人が、メモを片手に飛んでくる。
「はいはーい。ご注文はお決まりですか? なんて、さやかちゃんの場合、もう決まってるだろうけど」
「はい。チキンボロネーズ6つお願いします」
「はーい6つねー」
「……」
……6つ?
「あと、チューハイです」
「りょうかーい。もう調理入ってるから待っててね~」
颯爽と走り去る女性を見送ってから、俺は彼女に話しかけた。
「水森」
「はい」
「チキンボロネーズ、6つって」
「ここのチキンボロネーズが激うまなのです。是非キリタニさんにも食べて頂きたいのです」
「うん、それはいいんだけど」
「あ。キリタニさんの飲み物、注文忘れてました。何がいいですか」
「ウーロンで」
じゃない。違う。そうじゃなくて。
6つって何だ。