「とりあえず、出ようか」
「そうですね」
エントランスを出れば、強い季節風が俺達の間を吹き付けた。
春とはいえ、夕方の空気はまだ冷える。腕に抱えたままの上着を急いで羽織り、夕暮れに染まる歩道を、2人で並んで歩いていく。
俺が上着を着終えるまで、2人分の鞄を彼女がさりげなく持っていてくれていて、そういう気遣いがすぐ出来るところが女の子なんだな……と、改めて実感させられた。
周りを見渡しても同僚の姿はなくて安堵する。
声を掛けられて連れが増える、なんて面倒な展開だけは避けたかったからだ。
同時に、嫌だとも思った。
「あ、水森さん」
「水森でいいですよ」
「じゃあ、水森。どこか行きたい店ある? 一応、このあたりの店いくつかリストアップしてきたけど」
「そうなんですか。じゃあ、そのお店は今度行きませんか?」
「いいけど……」
……今度。
今度、また一緒に行こうと思ってくれてるんだ。
そんなさりげない主張に胸がざわつく。
なんだこれ。中学生かよ。
今まで女に無関心だった自分の前に現れた、ちょっと気になる女の子。
そんな存在が出来た事に、俺もテンションが上がっているのかもしれない。