『1時間で、100万円の絵画を売る営業に挑戦してみませんか』



 そんなキャッチセールスに惹かれて入社した。
 釣られた、という表現の方が正しいかもしれない。
 今思えば、胡散臭さ満載だ。

 アジュール株式会社―――
 日本では珍しい『アート』を営業ビジネスとしている。

 絵画の提案営業だけではなく、展示会やイベント開催・販売会など、アートマーケティングやプロモーションも手掛けている。日本、そして世界各国のアーティストの発掘、プロデュースまで、幅広く関連事業を展開させている会社だ。

 創業30年、社員数250名。
 そのうちの1人が俺、桐谷(きりたに)郁也(いくや)だ。
 まだ、駆け出しではあるが。

 それでも基本的な営業や商品知識、そしてマナーは、度重なる研修を経て習得した。先輩方から教わった営業スキルも、見よう見まねで身につけた。右折屈折しながらも自己流の営業スタイルを確立し、1人で売ることも出来るようになった。入社して2年目、成績は決して悪くない。


 なのに―――充実感がまるで無い。