トントンと、リズミカルに階段を降りていく。4階から一気に降りるのもなかなか大変なもので、徐々に息が上がってくる。
だが定時上がり、疲労の溜まった体に鞭打って階段を使う奴なんていない。途中で人とすれ違うことはなかった。
最後の段を下り、正面玄関に目を向ける。そこには既に彼女―――水森の姿があった。
ショルダーバッグを肩に掛け、壁に背を向けてスマホをいじっている。待たせてしまったかと急いで駆け寄れば、俺の気配に気付いた彼女が顔を上げた。すぐさまポケットにスマホを仕舞い、お互いに向かい合う。
「キリタニさん。お疲れ様です」
「お疲れ様。待たせたみたいでごめん」
「ちょっとフライングしちゃいました」
「何分前から来てた?」
「17時の5分前くらいです」
「確かにフライングだ」
「楽しみで。テンションあげ過ぎました」
……顔、無表情だけどな。
でも彼女の言葉が嘘じゃないのは、真っ直ぐに向けられた瞳と、喜びが混じったような柔らかい声音でわかる。
楽しみに、してくれてたんだ。
そんな一言に浮ついてしまう自分がいる。