今日だけで何度、時間を確認したのか。
 仕事の合間に腕時計を見て、手が空いていればスマホで確認する始末。周りから「落ち着きないな」と言われるくらいだから相当だ。自覚はしてる。

 定時前にあらかた業務を終わらせて、スマホでグルメアプリを立ち上げる。現在地とキーワードを入力して、近場で評判の良い店をチェックしていく。
 彼女とは知り合って1日、一緒に食事へ行くのも、当たり前だが今日が初めてだ。小洒落た店よりも親しみ慣れた通りにある店の方が、互いに気兼ねなく過ごせていいかと判断した。

 そこまで考えて、指が止まる。
 自嘲気味な笑みが漏れた。

「……笑えるな」

 何がっついてんだ、自分でもそう思う。
 昨日まで、平凡な毎日がつまらないとボヤいていたくせに。
 それは久々に味わう、高揚感だった。


 定時を迎えると同時にPCの電源を落とす。すぐさま鞄とコートを抱えて、飲みに誘われる前にオフィスを出た。
 エレベーター前には既に人だかりが出来ていて、それらを無視して階段がある通路へ向かう。今は時間よりも、人気が少ない道を優先したかったからだ。

 定時後のエレベーターは、人の目が多い。
 誰かに呼び止められる可能性も高い。
 挙げ句、長話に付き合わされて待ち合わせ時間に遅れる、なんて事になったら最悪だ。それだけは絶対に避けなければならなかった。