到着したエレベーターに乗り込んで、3階と4階のボタンを同時に押す。
俺と彼女以外、エレベーターに同乗した人間は誰もいなかった。
「……あのさ。昨日の事なんだけど」
「はい」
「ご飯でも一緒に、って言ってたヤツ。今日、どうかな」
自然体を装って誘ってはみたものの、実のところは緊張していた。
昔から異性が苦手だった。
どこがどう苦手なのかと聞かれても、うまく言えない。強いて言うなら、会話が噛み合わない、執着が激しい、面倒くさい。そんなところだ。
だから必要以上に話しかける事もしないし、プライベートで関わる事も基本しない。食事に誘うなんてもってのほか、だ。
その俺が、まさかこうして異性を誘う日が来るとは思わなかった。自分の発言に、自分が一番驚いている。
彼女に対して苦手意識は全く抱かなかった。
昨日交わした会話の中で、彼女の機転の早さと聡明さを目の当たりにした。
その時胸に抱いたのは、嫌悪感ではなく好奇心。
女の内面にある苦手な部分、それを、彼女からは何ひとつ感じなかった。
そればかりか、もっと話してみたい、仲良くなってみたいという気持ちが俺を突き動かしている。
それに、マーケの人間と情報を共有できるチャンスでもあるから。
……まあ、これは完全に言い訳だな。