断る理由など無い。
俺は素直に頷いた。
敬語に直したのは、彼女が同じ会社で働く先輩かもしれないからだ。
共に並んで歩き出す。
既に別の階へと稼動していたエレベーターの到着を待つ間、改めて自己紹介を交わした。
彼女―――
水森さやかは、俺と同じ時期に入社した子だった。
つまり同期。
先輩ではなかったようだ。
アジュールには3つの部門があり、俺は営業部門に所属している。彼女はマーケティング部門で、役割的には近い位置にいる。マーケの人間と情報交換する機会も多い。
とは言え、俺も彼女もまだ駆け出しだ。大掛かりな案件を任せられる機会はほとんど無く、企画課や開発課と組んだことは一度もない。
更に言えばマーケは部署の数が多く、役員数も営業に比べたら遥かに多い。
つまり、彼女と接する機会は現時点ではほぼ無い、ということになる。
社員数がそこそこ多い会社で彼女の存在を知らなかったのは、ある意味、仕方ないとも言えた。