もう会うことは無いだろう。
そう思っていた彼女に、再会した。
空腹で倒れていた彼女を助けた、その翌日の朝に。
出社前。
自社ビルのエントランス。
奥にあるエレベーター前に、彼女はひとりで立っていた。
腕にはピンクのショルダーバックと、昨日と同じトレンチコートを抱えている。着ている制服は、アジュールで指定されているものだった。
「……まじか」
昨日の、彼女の格好が脳裏に浮かぶ。コートの襟元から覗く制服は、うちの会社のものだったのか。全く気付かなかった。
そもそも女性社員の制服デザインなんて、どこの会社も似たり寄ったりなものばかりだ。まさか同じ会社の人間だとは夢にも思わない。
どうする、と思考を急かす。
また偶然会ったとしても関わらない、そう決めていたけれど、同じ会社の人間ならそうもいかない。
何より「また会えるなら会ってみたい」、密かに抱いてしまった彼女への興味が、頑なだった意思を揺らぎ始めていた。
異性と深く関わりたくない。
そう思っていたはずなのに。