血色を失っていた彼女の頬は、薄く赤みがさしている。顔色も悪くない。
 一時はどうなるかと思ったが、お腹が満たされた事で体調も元に戻ったようだ。

 目的地まで車で送ってあげようかと思ったが、その目的地はすぐ近くなので、そう言って彼女はその場を後にした。
 最後に俺を振り向いて、頭を下げてくる。
 律儀な子だな、そう思いながら軽く手を振って応えた。
 俺もいい加減、会社に戻らないと。

 というか、結局何も食べていなかった。

「………」

 遠くなっていく後ろ姿を見て。
 ふと、疑問を抱く。

 一般企業の定時時刻は、基本17時と決まっている。
 今はまだ16時半。定時前だ。
 会社の人間が帰宅できるような時間帯じゃないのに、あの子はどうして、こんなところにいたのだろう。

「……いや」

 そこまで考えて、頭を振る。
 そんな事を考えたところで意味は無い。
 もう会う事も無いだろう他人の事を考えたところで、どうしようもない。
 俺には、全く関係の無いことだ。






「……やっぱり、お礼してもらえばよかったな」

 誰ともなく呟く。
 密かに湧いてしまった彼女への興味は、それまでの思考と共に放棄した。