幸いにも、彼女は空気の読める子のようだ。口に出さずとも、俺の真意は彼女に伝わったらしい。そうですか、と素直に引き下がってくれたお陰で、後味の悪い思いをせずに済んだ。人間、いつでも引き際が肝心だ。

「もし、また再会する事があったら、その時はお礼をさせてください」
「ああ。その時は一緒にご飯でも」
「はい」

 今交わした口約束はきっと果たされない。
 道端で困っていたから助けただけの相手と、また再会する確率なんて、偶然でも起きない限りゼロに近い。それは彼女自身も理解しているだろう。

 だからあえて、「再会した時は」なんて仮定を彼女は口にした。
 このぎこちない雰囲気を変える為だけの言い回し。社交辞令。
 そして俺も軽く応えた。

 会話の流れを変えてくれたお陰で、気まずさの残った場の空気が軽くなる。彼女の誠意を拒否した俺が罪悪感を抱かないように、うまく機転を利かせた彼女の気遣いが、気さくな言葉の端から感じ取れた。

 思わず感心を抱く。
 苦手だと思っていた異性への意識が、少しだけ薄れたような気がした。

 ……なんだ、いい子じゃんか。